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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)58号 判決

事実及び理由

審決にこれを取り消すべき事由があるかどうかの点について検討する。

(一)  当事者間に争いのない本願考案の要旨及びいずれもその成立に争いのない甲第二、三号証(本願考案の明細書、図面、補正図面)によれば、本願考案は、電子楽器の鍵盤スイツチを多層に構成する際に使用される積層用ユニツト(積層して使用するための一段分のユニツト)に関するもので、具体的には、明細書の実用新案登録請求の範囲に規定されるように、四辺形の接点支持枠と、共通の固定接点と、複数の並列可動接点と、各可動接点に固定されたアクチエータとを一段ずつまとめて一体構成し、右並列可動接点が鍵盤の鍵によつてそれぞれ独立して駆動されるとともに、このスイツチユニツトを所定段だけ積層した際には、各スイツチユニツトにおける対応する列の可動接点が、アクチエータを介して連動し、同時に駆動されるように構成したものであることが認められる。

(二)  一方、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例に記載のものは、可動接点指、固定接点指、ローラ、隔離材等を個別に構成し、ボルトにより全体を一体に結合することにより、間隔を置いて積み重ねた可動接点指と固定接点指とで多層スイツチを構成するとともに、各層の可動接点指間にそれぞれローラを介在させ、各隣接ローラを互に積重ね状に関連させるようにした継電器であり、右ローラは、電磁巻線の付勢により作動する接点作動アームの作動によつて、垂直方向(縦方向)に配列された全体の可動接点指を一斉に駆動させるように機能するものであることが認められる。

そして、右各事実によれば、引用例の継電器は、電磁巻線の付勢によつて全体の可動接点が一斉に駆動されるのに対し、本願考案の対象とする鍵盤スイツチは鍵盤の鍵によつて各列の可動接点が独立して駆動されるようになつているが、鍵盤の鍵によつて並列可動接点をそれぞれ独立して駆動すること自体は、鍵盤スイツチ本来の構成にすぎないことは明らかであるから、このような鍵盤スイツチを単に多層とした場合を想定すれば、引用例の各層の可動接点を(前記甲第四号証図示のものでは、並列する二個の可動接点指から成つているが)前記多層の鍵盤スイツチにおける縦方向一列分の可動接点に対応させることができ、また、引用例に示されるローラは、前述したように各層の可動接点を連動させるように機能する点からみて、これを本願考案におけるアクチエータに対応させることができる。

しかしながら、引用例に示されるものは、固定接点、可動接点、ローラ(アクチエータ)などを個別に形成し、これらを適当段数積み重ね、ボルトにより全体を一体に結合して一つの多層スイツチを構成したものであり、したがつて、積層段数を加減することは可能であつても、そこには、本願考案のように多層スイツチを各層ごとにユニツト化する着想は開示されていない。

また、成立に争いのない甲第五号証によれば、実公昭三七―一二四六一号公報には、支持板に固定接点と並列可動接点とが取着されて一つのユニツトとなつている鍵盤用スイツチが記載されていることが認められるが、しかし、右鍵盤用スイツチの構成によつては、鍵の数に応じて水平方向にこのユニツトを並設することはできても、これを積層することによつて多層スイツチを構成することはできない。

(三)  さて、前記(一)に認定の事実によれば、本願考案は、原告がとくに請求の原因(四)の3で主張するように、電子楽器の鍵盤スイツチを多層とする場合において、これを一段分ずつのスイツチユニツトの積層によつて形成することに着目し、かかる積層可能な一段分のスイツチユニツトを、四辺形の接点支持枠と固定接点と並列可動接点とアクチエータとで構成した(原告が請求の原因(四)の1で主張する「各可動接点にそれぞれアクチエータを固定する」点も、かかるユニツト化との関連において考慮すべきことと考えられる。)ものであり、これによつて、単に接点支持枠を積み重ねるだけの簡単な作業で多層の鍵盤スイツチを構成することができるという実用上の効果を奏するようにしたものとみることができる。

もつとも、右の点について、複数の部品をあらかじめ組み立てて、ユニツト化すること自体は、被告が主張するように、各種の分野で慣用されていることということができるが、電子楽器の鍵盤用スイツチを多層とすることが、各層に対応して水平方向(横方向)に配列された並列可動接点はそれぞれ独立して駆動され、垂直方向(縦方向)に配列された対応する列の複数の可動接点は同時に駆動されるようにするためであることは明らかであるところ、このように縦横両方向に多数の可動接点を有する多層スイツチをユニツト化するにあたつては、より強く関連している可動接点同志を一体にまとめようとするのが通常の思考傾向であると考えられるから、前記したところから明らかなように横方向に配列される並列可動接点よりも縦方向に配列される各列の可動接点の方により強い関連性を持たせる必要がある電子楽器における多層の鍵盤スイツチをユニツト化する場合には、縦方向に配列された対応する列の複数の可動接点について、これらを一つのユニツトにまとめようとする(横方向に配列される可動接点列の数は鍵の数を考慮して適当数に選ぶとしても)のが、普通に考えられるユニツト形態であると考えられる。ところが、本願考案は、前記多層スイツチをユニツト化するにあたり、相互に強い関連性を持たせるべき縦方向における複数の可動接点を敢えて各層ごとに分割し、前記縦方向における可動接点に比し相互の関連性が弱い前記横方向における並列可動接点を一段ずつユニツト化するようにし、前記縦方向における複数の可動接点を同時に駆動する必要性に対しては、かかる積層ユニツトを積層した際、各スイツチユニツトにおける対応する列の可動接点がアクチエータを介して同時に駆動されるように構成したものであるから、その構成に想到するについては、前記した思考傾向からみて、そこに、相当程度の技術的困難性が存在するとみるのが相当である。

(四)  そうすると、右のような積層可能なスイツチユニツトを構成することについての開示がない引用例ないし前記公報の記載に基づいて、本願考案がきわめて容易に考案することができたものとすることはできず、右に反する審決の判断は誤りであるといわなければならない。

そして、審決における右判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、審決は、これを違法として取り消さなければならない。

よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註その一〕本件における請求原因は左のとおりである。

(一)  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四四年八月一九日、特許庁に対し、実用新案登録出願(昭和四四年実用新案登録願第七八二〇一号)をし、右出願について実用新案法第九条第一項の規定で準用する特許法第四四条第一項の規定により、昭和五一年四月二六日、考案の名称を「電子楽器用鍵盤スイツチの積層用ユニツト」として分割出願(昭和五一年実用新案登録願第五二二三八号。以下右分割出願にかかる考案を「本願考案」という。)をしたが、昭和五二年六月二三日拒絶査定があつたので、審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁昭和五二年審判第八四六七号事件として審理したうえ、昭和五四年二月二八日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし、その謄本は、昭和五四年三月一四日、原告に送達された。

(二)  本願考案の要旨

四辺形の接点支持枠と、この接点支持枠に取着された固定接点と、この固定接点の一端が交差すると共に他端が前記接点支持枠の平面内に一段にて並設された可動接点と、この可動接点に各々固定されたアクチエータとを具備したことを特徴とする電子楽器用鍵盤スイツチの積層用ユニツト。(別紙図面(一)参照)

(三)  審決の理由の要点

本願考案の要旨は、前項のとおりのものと認める。

原査定の拒絶理由に引用された刊行物実公昭三三―五五五〇号公報(以下「引用例」という。)には、接点隔離材を任意数積み重ね、それらの層間に固定接点指を挾持させると共に、別の接点隔離材によつて前記と同様に可動接点指を挾持させ、それら両接点指によつてスイツチを構成し、接点作動アームに嵌合せるローラを最下層の前記可動接点指に嵌合させると共に、各層の可動接点指の間にローラを介在させ、前記各ローラを関節的に連結することにより、各可動接点指を連動した継電器が記載されている(別紙図面(二)参照)。

そこで、本願考案と右引用例のものとを比較すると、両者は、間隔を置いて積み重ねた可動接点と固定接点とにより複数のスイツチを構成すると共に、各可動接点にそれぞれアクチエータを装着し、これらのアクチエータを互に積重ね状に関連させることにより、各可動接点を連動した多連スイツチ、という基本的技術思想において一致するものと認められ、前者は、鍵盤スイツチの部分品に関するものであるのに対し、後者は、継電器用スイツチに関するものであること、前者は、固定接点と可動接点とを共通の接点支持枠に取着するのに対し、後者は、それらを別個の接点隔離材で挾持すること、前者は、多数の可動接点を並設し、それらの自由端において固定接点を交差状に対向配置するのに対し、後者は、二個の可動接点を並設し、それらの自由端に各別に固定接点を対向配置すること、前者は、アクチエータを可動接点に固定するのに対し、後者は、アクチエータに相当するローラを可動接点に緩く嵌合し、関節的な動きができるようにしていること、で差があるものと認められる。

しかし、両者は共に多連スイツチに関するものであり、鍵盤スイツチと継電器用スイツチとの差は単なる用途の差にすぎず、該用途の差に基づく格別の効果は何も認められないので、この用途の差は技術思想として格別のものとは認められない。また、最終組立段階における作業及び調整を容易にするために、複数の部品をあらかじめ組み立ててユニツト化することは、各種分野で慣用されており、電子楽器の分野でも例外ではない(本請求人の出願に係る実公昭三七―一二四六一号公報参照)ので、固定接点と可動接点とを共通の接点支持枠に取着することは必要に応じて容易になしうることと認められ、それを一段分ずつのユニツトにすることは、積重ね段数を加減するという目的から当然のことと認められる。そして、並設した可動接点の自由端に固定接点を交差状に対向配置した鍵盤スイツチは周知(前記実公昭三七―一二四六一号公報参照)であり、このような鍵盤スイツチに後者の技術思想を適用するうえで格別工夫を要したものとは認められない。さらに、後者がローラを可動接点に対して関節的な動きができるよう緩く嵌合しているのは、動作を円滑にするためであり、この点を無視してアクチエータを単純に可動接点に固定することは、きわめて容易になしうることと認められる。

以上のように、前記相違点はいずれも格別のこととは認められないので、本願考案は、その出願前に頒布されたことが明らかな前記引用例に記載のものに基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものと認められ、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

(四)  審決を取り消すべき事由

審決は、後記のとおり、本願考案と引用例記載のものとの相違点を看過し、また、相違点とした事項についても判断を誤つたものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  可動接点とアクチエータとの関連について。

(1)  審決は、本願考案と引用例記載のものとの一致点の一部として「各可動接点にそれぞれアクチエータを装着している」点を挙げているが、引用例記載のものは各可動接点にそれぞれアクチエータを装着した構造を有しているとはいえないものである。すなわち、引用例記載の継電器においては、本願考案のアクチエータに相当するローラは並列する二個の可動接点指に対して共通に設けられており、接点とアクチエータは一対一の対応をしていないから、「それぞれ」とはいえない。

また、積み重ねられた同じ列の可動接点指だけについても、各ローラはローラ上面のピンが接点指の孔を自由に通過して上方のローラの下面の孔に遊隙をもつて受け入られた状態で積み重ねられているにすぎないから、これを装着というのは誤りであつて、「可動接点指間にローラを介在させている」にすぎない。

さらに、ローラは上面及び下面で可動接点指と接触しているから、各可動接点に対してそれぞれアクチエータを設けているともいえないものである。

(2)  審決は、本願考案と引用例記載のものとの相違点を看過している。すなわち、

本願考案においては、引用例の可動接点指に相当する各可動接点に各々アクチエータを固定することを要件の一つとしているものであるから、この点で引用例のものと相違することは明らかである。

また、本願考案の積層用ユニツトは、積層可能であつても単層ユニツトとして要件をそなえていなければならず、単層の可動接点について装着されているかどうかが問題である。すなわち、引用例記載のものは上下の接点で挾持されてはじめて保持されるものであつて、一層の可動接点によつて保持されているものではないから、一層ユニツトとしてみれば、装着されているとはいえない。

なお、被告はローラとそれに接触している上下いずれか一方の可動接点指とが一層分のユニツトを形成していると主張しているが一方だけでは保持されないことは前述のとおりである。

(3)  審決は、本願考案において各可動接点にそれぞれアクチエータを固定した点について、これをきわめて容易になしうることとしているが、引用例記載のものは、可動接点指とローラが交互に積み重ねられているだけで、本願考案のようにアクチエータ(引用例のローラ)を各可動接点指に固定することについて何ら示唆していない。

審決にいうように動作を円滑にする点を無視して単純に固定することは引用例に記載された継電器において可能であろうが、その場合に固定するのであれば積み重ねた全体を一体に固定することを考えるのが普通であつて、可動接点指を一方の側のローラとだけ固定することが当然のことであるということはできない。

また、引用例記載の継電器においては、並設された可動接点によつてローラが挾持され、細長いローラを二個所で上下から挾持しているために固定しないでも安定に保持されているが、並設された可動接点が各々独立の動作をする本願考案の鍵盤スイツチにおいて引用例に記載された構造を適用するとすれば、ローラを並設された可動接点に対応して分割することになるが、そのような構造では上下各一個所で挾持することになるから機械的に不安定になることは明白である。したがつて、引用例記載のローラ部分(アクチエータ部分)の構造はそのまま本願考案の鍵盤スイツチに適用することは不可能なものである。

本願考案は、審決にいうように円滑な動作を無視して単純に可動接点とアクチエータを固定するのではなく、積層した各層の可動接点を駆動するために並設された各可動接点にそれぞれアクチエータを固定してユニツトを積層するだけで接点相互間の位置調整がほとんど不必要な積層用ユニツトを得たものであるから、引用例の記載からきわめて容易になしえたものではない。

(4)  被告は、引用例記載のものはピンが設けられこれによりローラの側方移動が阻止されていると主張しているが、引用例記載のものにおけるローラは、上側の可動接点とピンで結合すると共に下側の可動接点を貫通する隣接する下方ローラのピンと結合することにより、上下の可動接点と結合して側方移動が阻止されているのである。したがつて、もし一層の可動接点と一個のローラであれば、ローラは回転してピンが抜け、側方移動は阻止できない。

被告は、また、積重ね層数を可変にする以上全体を一体に固定することは考える余地がないと主張しているが、引用例記載のものは、各接点層ごとにユニツトとなつているものではなく、ボルト9、10により全体として一体に組み立てたものである。したがつて、接点層数を変化させる場合には、ボルト9、10を外して層数を変えることになる。それゆえ、ローラを固定する場合にも、同様の構造で任意段数積層したローラ全体を一体に固定することは可能であり、引用例に記載されたように並列した各接点指もばらばらな状態のものを組み立てることから考えれば、ローラだけを並列接点の両者に固着することはむしろ考えられないことである。

したがつて、本願考案のように積層可能とするために各可動接点に各々アクチエータを固定することは引用例の記載に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものということはできない。

2  本願考案の対象とする「鍵盤スイツチ」と引用例記載の「継電器」との基本的動作態様の相違について。

(1)  審決は、本願考案と引用例記載のものとは「多連スイツチという基本的技術思想において一致する」と認定しているが、本願考案の鍵盤スイツチは並設された可動接点が鍵盤の鍵によりそれぞれ独立に駆動されるものであるのに対して、引用例に記載された継電器は並設された二個の可動接点指が共通のローラにより同時に駆動されるものであつて、両者は、同じ多接点スイツチであつても接点の駆動態様が全く異なり、スイツチの機能上大きな相違が認められるから、審決が両者を基本的技術思想において一致すると認定したことは誤りである。

(2)  審決は、両者は共に多連スイツチに関するものであり、両者の差は単なる用途の差にすぎないとしているが、鍵盤スイツチは鍵盤によつて接点の駆動を行うものであつて、駆動源は鍵盤の各鍵であるから、独立に駆動される可動接点を並設する構造が採用されているが、引用例に記載された継電器は一個の電磁巻線の付勢によつて各可動接点指が駆動されるのであるから、各可動接点を同時に駆動するようにアクチエータが構成されているのであつて、両者は基本的な構成において相違し、これを単なる用途の差にすぎないとすることは誤りである。

(3)  審決は、最終組立段階における作業及び調整を容易にするために複数の部品をあらかじめ組み立ててユニツト化することは、各種分野でも例外ではないとし、実公昭三七―一二四六一号公報(甲第五号証)を参考例として掲げる。しかし、同公報に記載のものが並設した可動接点の自由端に固定接点を交差状に対向配置した鍵盤スイツチであることは認められるが、このスイツチは前項記載のように積み重ねて使用するものではなく、また、積み重ねて使用するための技術的手段も同公報には示唆されていない。

(4)  引用例に記載された継電器は、前述のように並設された二個の可動接点指が共通のローラで同時に駆動されるものであるから、この技術思想を適用しても同公報記載のものを積層するために必要な各可動接点を個別に駆動し、かつ、積層した対応する列の可動接点を同時に駆動する技術的課題は解決されず、したがつて、「並設した可動接点の自由端に固定接点を交差状に対向配置した鍵盤スイツチは周知(同公報参照)であり、このような鍵盤スイツチに引用例の技術思想を適用するうえで格別工夫を要したものと認められない。」との趣旨の審決の判断は、誤りといわなければならない。

(5)  被告は、引用例を引用した趣旨は、鉛直方向の層数を調節可能にすることが公知であることを示すためであり、水平方向の配列は関係がないと述べているが、本願考案は積層可能な単層のユニツトに関するものであるから、単層において駆動態様、スイツチの機能が全く異なるものを多連スイツチという基本的技術思想において一致するというのは不当である。

本願考案は独立して駆動される並列接点を多層にすることを可能にするための構造に特徴を有するものであるから、この基本的構造を無視して審決が基本的技術思想において一致するとしたことは誤りである。

(6)  被告は、接点の駆動態様においてもスイツチの機能上においても鍵一個分のスイツチとして差はないと主張しているが、電磁駆動と鍵盤による駆動ではスイツチの構造上大きな相違があり、とくに引用例記載のものは電磁駆動であるために各接点を独立して駆動することは不可能で単なる用途の差ではありえない。仮に、引用例記載の継電器の電磁付勢を無視し、接点部分だけを取り出して本願考案と比較しても、引用例記載のそれをそのまま電子楽器用スイツチとして使用することはできない。

(7)  被告は、引用例において一方の可動接点指を省略して可動接点指とローラとを一対一で対応させることは容易に推考できることであると主張しているが、引用例に記載されたものは、前述のように全体として一体に保持されるものであつて、一個の可動接点と一個のローラが結合した一つのユニツトとなつているものではなく、ローラは並列接点に挾持されて安定に保持されているものであり、これから一個の可動接点にアクチエータを固着することが容易に推考されるものではない。

3  多層スイツチを各層ごとにユニツト化する点について。

(1)  審決においてユニツト化の一例として提示された前記実公昭三七―一二四六一号公報記載のものは、一層のスイツチで、複数個を並設して使用するものであり、積み重ねて使用するものではない。このスイツチユニツトは基盤上に可動接点が並設されているから、可動接点を駆動するための特別の駆動手段を工夫しなければ積み重ねて使用することはできない。

一般に複数の部品をあらかじめ組み立ててユニツト化することが慣用されていても、鍵盤スイツチにおいて接点を多層に配置することが要求される場合に、本願考案のように積層して使用できる一層のユニツトとすることが当然であるということはできない。鍵盤スイツチにおいては、並設した各可動接点は鍵盤の別々の鍵により駆動され、積層した場合には各層の対応した列の可動接点は一つの鍵により同時に駆動されなければならない。したがつて、積層用ユニツトを可能にするためには各層のユニツトの対応する列の可動接点を同時に駆動するための駆動手段が解決されなければならない。そのため、従来鍵盤スイツチにおいて接点を多層に配置することを必要とする場合には一つのユニツトとして多層の可動接点を有する鍵盤スイツチユニツトが使用されていたものである。また、引用例に記載された継電器をみても各部品を結合して一つの多層スイツチとするものであつて、多層スイツチを各層でユニツト化する構成は何も示されていない。

したがつて、「一段分ずつのユニツトにすることは、積重ね段数を加減するという目的から当然のこと」ではなく、本願考案のように接点支持枠に固定接点と可動接点とを取着すると共に、各可動接点に各々固定されたアクチエータを具備する構造を採用することによつて積重ね段数を加減することができる一段分ずつのユニツトが可能になつたものであつて、審決の判断は失当である。

(2)  被告は、積重ね段数を加減するという目的を達成するために引用例記載の技術思想を利用して一段分ずつユニツト化することは当然の帰結であると主張している。

しかしながら、電子楽器スイツチの多層ユニツトにおいては積層段数を加減すること自体が本願出願前において当然であつたということはできない。従来電子楽器においてユニツト化は慣用されているといつても、それはあくまで水平方向に幾つかの鍵盤に対応するスイツチ素子を分割してユニツト化することであつて、多層スイツチを各層ごとにユニツト化することが当然帰結されるものではない。

なお、固定接点と可動接点とを共通の支持枠に取着する点に関しては、前記公報(甲第五号証)に記載されたように可動接点と固定接点とを共通の支持体で支持することは行われていても、それを枠体としてまとめることは、電子楽器スイツチの動作機能及び各層ごとに分割してユニツト化する思想からそのための最適構造として導かれるものであつて、この部分だけを切り離して、単に支持枠は支持体の一種であるから単なる設計的事項であるというべきではない。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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